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国立大学法人 東京海洋大学

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令和7年3月期東京海洋大学卒業?修了における学長式辞

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★20230517_海洋大学_越中島_373.JPG 海洋生命科学部、海洋資源環境学部ならびに海洋工学部の皆さん、本日はご卒業誠におめでとうございます。そして海洋科学専攻科ならびに大学院海洋科学技術研究科の皆さん、修了おめでとうございます。入学?進学時の初心を貫いて、卒業?修了という大きな目標を達成された皆さんには、心から敬意を表したいと思います。

 これまで幾多の苦難を乗り越えて、本日を迎えた皆さんの努力を称えて、しっかりと自分自身を褒めてあげて下さい。そして、その喜びを是非、ご家族や友人たちとも分かち合って欲しいと思います。

 また、本日、ご多忙にもかかわらず、ご臨席を賜りました一般社団法人 楽水会 会長 松本 和明 様、一般社団法人 海洋会 会長 関根 博 様には厚く御礼申し上げます。

 さて、本日本学から船出する皆さんは、これから新しい船に乗り込み、新しい仲間と出会い、新しい港を目指すことになります。本学で学んだ皆さんは、海に関わる学問分野の専門家として 大いに期待されています。そして、新しい船の中には 皆さんとは違った専門分野から来た仲間がいて、力を合わせて航海を続けることになるでしょう。気の合うメンバーが揃っていることを祈っていますが、もしかすると、反りが合わないと感じる人が居るかもしれません。多種多様な人々で構成されるのが社会であり、これから皆さんが乗り組む新しい船だからです。

 先日読んでいた本の中で「無事 是 貴人(ぶじ これ きにん)」という言葉に出会いました。もともとは、中国唐代の禅書「臨済録」に書かれている言葉で、「無事」とは、私たちが普段使っている「怪我や事故の無いこと」を意味するのではなく、取り繕うことをせず、有りのままでいることを指すようです。そして、貴人(きにん)とは文字通り貴い人という意味だそうです。私たちに当てはめて解釈すると、名誉や賞賛を欲しがらず、常に平常心で仕事に集中していれば、いつの間にかチームの主要メンバーになっている自分に気づく、というような意味になるのではないでしょうか。多様な人々で構成される集団の中で、お互いのコミュニケーションを大事にして、時には「それ、いいね」とお互いを認め合い、チームとして最高のパフォーマンスを発揮できるように行動することが重要ではないかと思います。

 一方で、皆さんがこれまで学んできた専門分野の知見から判断して、仲間が間違った方向に進もうとしているときには、冷静な態度で科学的根拠をもって 論理的に説明し、間違っていることを理解してもらう努力をしなければなりません。例えば、全世界で取り組んでいる地球温暖化対策に対する不信感から、アメリカ合衆国では、パリ協定離脱の大統領令が2回も出されました。このような漠然とした不信感を払拭するために、20218月に出された「国連 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次評価報告書では、Event Attributionによる科学的根拠に基づいて、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と結論付けています。Attributionとは「原因を~に帰すること」という意味で、このEvent Attributionは、「最近の異常気象は地球温暖化のせいなのか?」というような、漠然とした問いに対して、確率論的に求められた数値によって明確に答える研究手法です。このIPCCの評価報告書は、社会の問題意識や危機感を高めるとともに、各国の地球温暖化対策を促進させることに役立てられています。

 ところで、このEvent Attribution の大元となっている研究は、プリンストン大学上級研究員の真鍋淑郎(まなべ?しゅくろう)先生が1969年に発表された「大気海洋結合モデル」であり、大気中の二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化に影響することを実証したことで、真鍋先生は2021年のノーベル物理学賞を受賞されました。当初は、限られた計算領域での数値シミュレーションでしたが、幅広い分野の数多くの研究者や技術者によって、Event Attributionはスーパーコンピュータによる地球全体のシミュレーション計算にまで拡張され、実用的価値が高められました。そのことが、ノーベル賞受賞につながったと考えられます。この事例は、研究分野を横断して、数多くの人々が関わることで、より一層高いレベルの成果が得られることの典型的な例だと思います。

 少子化が急速に進行する日本においては、自分の専門にこだわらず、むしろ積極的に異分野の人々とのコミュニケーションを取りつつも、「無事 是 貴人」のような人達の存在が、社会の持続可能な発展を支える鍵になるように思えます。残念ながら、私には真鍋先生との接点は全く無いのですが、国立環境研究所のHPに出ている真鍋先生に近しい方々のインタビュー記事によると、真鍋先生は相手が誰であっても楽しそうに話をされ、それがノーベル賞のインタビューであっとしても、名前も知らない学生の研究発表であっとしても、その態度は全く変わらないそうです。まさに、「無事 是 貴人」の人であると思います。

 本日、私が皆さんの心に留めておいて欲しいと思っていることは、まず、皆さんは最も海を理解する研究者?技術者グループの一員であるということ。そして、「無事 是 貴人」となって新しい船の主要メンバーになって欲しいということです。社会という広大な海への船出には不安はつきものだと思います。しかし、皆さんは孤独ではありません。はるか沖合には、皆さんを待っているたくさんの味方がいます。それは、創立22周年を迎える東京海洋大学とその前身である東京商船大学や東京水産大学を卒業した数多くの先輩たちです。世界中に広がる卒業生のネットワークは皆さんに大きな力を与えてくれるでしょう。是非、楽水会や海洋会の一員となって、順風満帆のスタートを切って欲しいと思います。そして、将来的には、皆さん自身が、後輩たちを力強く導く存在になって欲しいと思います。また、リスキリングやアップスキリングによってさらに上を目指す時には、是非、東京海洋大学に戻ってきて下さい。本学はいつでも、また、いつまでも皆さんを温かく迎え入れる大学でありたいと思っています。

 皆さんの元気に満ち溢れた笑顔に再び会えることを期待しています。

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令和7325
東京海洋大学長 井関俊夫

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